長野県教育委員会と長野県PTA連合会との教育懇談会

令和5年11月7日(火)に、長野県教育委員会内堀教育長はじめ教育関係課代表者と長野県PTA連合会の理事・監事との懇談会を開きました。懇談内容は16郡市連携懇談会や教育連携委員会等で検討を重ね、第4次長野県教育振興基本計画に基づいた内容となり、事前に質問書を送り、その回答をもとに進められました。懇談内容、質問書に対する回答は以下のとおりです。 

■須田長野県PTA会長と内堀教育長との懇談

須田会長:第4次長野県教育振興基本計画の中で、特に「個別最適な学び」について教育長が大切にされていることを伺いたい。

内堀教育長:長野県では「個別最適な学び」と「協働的な学び」を一緒に進めることを大切にしたい。「個別最適な学び」では、一斉一律の学びから一人ひとりに合った学びへ転換したい。理由は、「今は一人ひとりが自分の個性や可能性を認識しながら多様な他者を尊重し、知恵を出し合ってともに新たな社会を創っていくことが必要になってきている」という時代認識が一つ。もう一つは「そもそも論」だ。そもそも論とは「観」ということ。子ども観、学習観、学校観、教員観、或いは人間観。そもそも「学び」とは楽しいことで、知るのはわくわくすること。いろいろなことを知りたい、もっと学びたいという気持ちを生まれながらに持っているのが「子ども」なのだという「観」を共有することが必要だと考える。

近年、AIやオンライン教育の発達によって「行かなくてもいい場所」になりつつある学校を「行ったらもっといいことが待っている場所」に変えていく必要がある。学校を様々な人と触れ合い、出会うことができる楽しい場所としたい。また、教員を教える人というだけでなく、子どもたちとともに学ぶ人・学びのモデルになるような人・ともに探究する人として位置付けていくと、支える人・伴走する人・いろいろな人と繋ぐ人、という役割に変わっていく。そういう「観」を共有し進めることが大切だと考える。

以下は、県教育委員会担当課からの回答です

■政策の柱① 一人ひとりが主体的に学び他者と協働する学校をつくる

1.ICT機器を活用した教育の現状と今後について

Q:地域や教師によりICT機器の活用に差があると思われる。児童生徒一人ひとりの学習進度に合わせた指導体制の構築や先生方への支援体制について教えてほしい。

A:県教委では、有識者の知見と合わせICT教育の方向性を示すとともに、出前講座を行うなどの支援を行ってきた。令和5年度は「子どもたち全員が、問題発見・解決の過程でクラウドを活用できる」ことを目標とし、同時共同編集を課題解決の過程で活用する授業を目指している。そのようなクラウドを活用した授業では、一人ひとりの追究や学習進度に合わせて学びが進められると考える。このような取組を継続し、ICTを活用した一人一人に合わせた学びが進められるよう支援していく。

Q:学びづらさを抱える多様な児童生徒の学びの充実を図るICT機器活用例について教えてほしい。

A:県教委では、令和5年度より、発達に特性があり学びづらさを抱える児童生徒の学びを充実させるため、特性を包み込む授業のあり方や、個々の特性を把握するアセスメント法、特性に応じた教育方法など、認知や発達の特性に応じた学びの充実実証研究事業を進めている。ICT機器の活用に関しては、研究校等と連携し、個々の生徒のつまずきに合わせた問題が追加される学習ソフト等の活用についても研究を行っている。ICTを活用することにより、学びづらさを抱える多様な児童生徒の学びの充実を図ることが期待できる。県教育委員会としては、誰一人取り残されない学びの環境を構築することを目標に、様々な研究を進めると共に、ICT機器活用に係わる研修を通し、各学校を支援してまいる所存。

Q:家庭学習の充実が課題とされる中、学校と家庭が連携するICT教育の推進について教えてほしい。

A:令和5年度全国学力・学習状況調査(児童生徒質問紙)及び市町村教育委員会への調査から、ほとんどの市町村で家庭への端末の持ち帰りが可能な環境であることから一層、端末の家庭学習への活用が期待されるものと考えているところ。県教委としても「長野県ICT教育推進センター」を中心に、各市町村教育委員会での取り組み等の情報提供をするとともに、学校と連携した家庭学習の在り方について好事例を紹介し、自律的な学びが進むよう、支援したい。

Q:チャットGPTや生成AIを活用する力は重要だが、授業や家庭学習での利用について伺いたい。

A:文部科学省より、「『初等中等教育段階における生成AIの利用に関する暫定的なガイドライン』の作成について(7月4日付通知)」が示されている。ガイドラインでは、「近い将来使いこなすための力を意識的に育てていく姿勢は重要である。」とする一方、「子どもの発達の段階や実態を踏まえ、年齢制限・保護者同意等の利用規約の尊寿を前提に、教育活動や学習評価の目的を達成するうえで、生成AIの利用が効果的か否かで判断することを基本とする。(特に小学校段階の児童に利用させることは慎重な対応をとる必要がある)」等が示されている。県教委としては、文部科学省がリーディングDXスクール事業において実証研究を進めている生成AIの活用について、その成果や課題を注視しつつ、その活用について研究を進めていきたい。

Q:1人1台のタブレット導入後、ハード面は充実したが、ソフト面の更新や今後の費用負担について教えてほしい。

A:1人1台端末の更新と同時に、日常の授業で使用される汎用性なアプリケーションに係わる費用負担はないものと承知。次年度以降も継続的な支援が行われるよう国に働きかけてまいる所存。

2.「質の高い教育」の実現に向けた、教師の働き方改革と教員の採用について

Q:教職員の人材不足解消の具体策について。

A:各郡市の校長会が総出で人員確保を行っているほか、臨時的任用者登録名簿の選任担当者を置き、呼び掛けや名簿更新を行っている。また、離職、休職防止のため、職場環境整備や働き方改革の推進、産育休に伴う代替員を事前に配置し、年度途中の欠員に対応している。

Q:長野県では、不登校の児童生徒が年々増加し、児童生徒に対する細やかな対応が求められている。山梨県では、段階的に公立小学校で25人学級制が導入されており、教師の配置基準の見直しが必要と考えますが、県内の状況や今後の方針を教えてほしい。

A:更なる少人数学級の推進のため、学習編成基準の見直しや、教職員定数の改善について、令和5年6月に知事・教育長から文部科学省に対して要望している。30人学級の定員引き下げは、国で少人数学級の効果検証を行っており、国と地方の協議の場を設け検証している。国の動向も注視したい。

Q:教職員の業務量削減に向けた連携コーディネーターの配置について教えてほしい。

A:高校での連携コーディネーター配置事業は、「学習者主体の高校づくりに向けた魅力化・特色化」を推進する、という目的に向けた新しい取り組みである。連携コーディネーターとは、校内外の様々なコーディネート機能を担う教員以外の人物で、「学校での役割」と「地域での役割」が考えられる。現在、研究校として2校(池田工業・野沢北)に配置し、効果的な配置方法等の検討をしている。

Q:教職員が、ワークライフバランスを推進し能力を発揮できるような環境整備と心身の健康を保持する取り組みについて教えてほしい。

A:教職員が働きがいや働きやすさを感じ、質の高い教育を行う環境整備のため以下の施策を進める。

1)業務の協業化・分業化・外部化・システム化を目指し、質・量ともに業務削減を図る。

2)会議や行事の見直し、日課の工夫、校務支援システムの活用を一層推進する。

3)教員の負担軽減を図るための教員業務支援員の配置をさらに進める。

4)多様化するニーズに対応するため、スクールカウンセラーなどの配置をさらに進める。

5)安全衛生委員会の開催を推奨し、職員の心身の健康維持に努める。

Q:小学校からの教科担任制と学年担任制の導入に関する現状について教えてほしい。

A:教科担任制については、国で教科担任制実施に向けた定数措置への移行を進めており、県でも、少人数指導に係る教員配置の弾力的運用を行っている。令和3年度に市町村(学校組合)教育委員会等に向け「小学校高学年教科担任制に向けた信州少人数教育推進事業の弾力的運用について」を示し、5・6年生への少人数学習集団編成加配については、高学年の専科指導を可能とする「発展的見直し」の実施、持ち時数にゆとりがある時は、高学年の専科指導を積極的に行う「従来型の弾力的運用」を行っている。各学年が2学級以下でも1学級30人を超える学年は、専科教員の配当基準とは別に少人数学習集団編成加配が適用され、専科指導教員の確保に活用されている。令和5年度に配置した専科指導教員(19人)は、国の加配定数を活用しており、更に定数改善を要望したい。

  学年担任制については、全ての児童生徒を全ての教職員が見守るという理念のもと、県内で広がっている傾向がある。メリットとデメリットを踏まえ、各校で判断がされていることから、県教委としては、各校の主体的な取り組みを支援したい。

■政策の柱② 一人の子どもも取り残されない「多様性を包み込む」学びの環境をつくる

  • 多様な特性をもった子どもたちへの対応について

Q:LD等通級指導教室が不足していると聞く。定員増加や設置教室の増加について教えてほしい。

A:現在、長野県は他県に比べて、教室設置がやや遅れている。教員の複数配置やサテライト教室の設置を含め、充実に向け取り組んでいる。LD等通級指導教室は、個別のニーズに応じた適切な学びの場の実現のためにはとても重要なので、引き続き対象児童生徒の実態を十分に把握の上、計画的に設置を進める。

Q:不登校の児童生徒に対する学びを止めないための、ICT機器の活用例について教えてほしい。

A:WEBカメラで授業を自宅や校内サポートルーム等へ配信、視聴したり、自分の意見をクラウド上でクラスメイトと共有したりする例がある。また、担任や養護教諭と相談を行っている例もある。

Q:不登校特例校の設置を検討されていると聞くが、どのような内容か教えてほしい。

A:学びの多様化学校(いわゆる不登校特例校)は、新たに学校を設置する「学校設置型」と現在ある学校の「分教室型」があり、学習指導要領が定める時間数より少ない年間時数で授業が行われる。複数教科の組み合わせ、登下校時間の柔軟な設定など、負担なく学校に通えることが期待される。

Q:「信州型フリースクール」を認証し支援するとお聞きしています。現在は、出席数について在籍の小中学校と連携されていますが、今後の方針について具体的に教えてほしい。

A:学校が作成した教材等や評価方法、フリースクールでの子どもたちの学びの様子を学校とフリースクール支援者が情報共有し、学校外の活動を学習評価につなげていくことが期待されている。各校の取組や民間施設との連携等は、心の支援課ホームページ「はばたき」をご覧いただきたい。

■政策の柱③ 生涯にわたり誰もが学び合える地域の拠点をつくる

  • 部活動の地域移行について

Q:教師の負担や指導者の確保、地域移行のモデル例、保護者の役割について。

A:移行期には一時的に教員の負担が増えることもあるが、移行が進めば時間外勤務は削減されると考える。教職員が指導者を希望する場合は、兼職兼業届を服務監督する教育委員会に提出し、受理されれば指導可能になる。県内各地から広く指導者を募集し、指導者リストの作成を検討している。市町村への情報提供やマッチングできる仕組みを図っていきたい。また、県外の先進事例を検証し、これまでの実践事業の取り組みを県教委スポーツ課HPで紹介している。保護者の皆様には「地域の子どもたちは、学校を含めた地域で育てる」という意識の下で、できる範囲で指導者・運営ボランティアといった形でご協力をお願いしたい。

■意見・要望

1.学校給食の無償化について

給食は単にお腹を満たすだけでなく、栄養を考えた献立を家庭の枠を超えて皆で囲み、味を知る機会でもあり重要な役割を担っている。現在、物価高騰の影響が続く中、県内の子どもたちが安心・安全に学校給食が食べられるよう、学校給食の無償化又は補助を要望する。また、給食の提供にあたっては、食育の場として、地元食材を積極的に取り入れていただくようお願いする。

回答:学校給食法では、学校設置者(市町村(学校組合)教育委員会)がその実施に努めることとし、設備費、人件費等は学校設置者、学校給食費については保護者負担と定められている。無償化には、多額の予算が必要となり、経費負担も法律の枠組みで定められていることを含め、厳しい財政状況であることをご理解いただきたい。県教委として、国に対し、財源を含め保護者負担軽減の具体的な施策を示すよう6月に教育長が上京して要望している。また、地元食材の活用は、栄養教諭等が積極的に推進している。

   

2.校舎等の修繕費・備品の予算について

 特別支援学校で、校舎の老朽化や児童生徒増加に伴う改修が必要な状況が見受けられるため、安心、安全な学校生活を送るため、必要な修繕、改修を要望したい。また、小中学校の備品や楽器等の購入に充てられる予算が少なく、古くても買い換えができない現状がある。ふるさと納税等と連携した取組で学校の収益強化支援等は検討できないか。

回答:児童生徒の安心で安全な学校生活を実現するため、特別支援学校への現地調査を実施したり、保護者や関係者のご意見も伺ったりしながら、引き続き、必要な修繕・改修を計画的に行う。

その他

 1. ラーケーション制度の導入について

回答:先行事例を注視しつつ、導入の効果と影響等について研究してまいりたい。

2. 教職員の定年延長により、学校ではどのような影響があるのか。

回答:令和5年度から令和13年度にかけて、職員の定年年齢が65歳まで段階的に引き上がる。これまでの再任用制度でも、校長、教頭が再任用教諭として勤務し、短時間勤務再任用教諭も勤務していたことを考えると、定年年齢の引き上げによる役職定年制や定年前再任用短時間勤務制の導入後も、教職員の勤務形態や業務内容に変化はなく、児童生徒や保護者への影響は少ないと考える。

■懇談会の謝辞とまとめ 塩原副会長

多くの方にご参加いただき、この懇談会が開催できたことに心から感謝申し上げる。

個人と社会のウェルビーイングの実現のため、探究し続けることの大切さや、個別最適な学び、協働的な学びの大切さについて学ばせていただいた。また内堀教育長のお話にあった、さまざまな「観」について改めて考えさせられた。どの施策についても未来を生きる子どもたちのために何ができるのかという内容で、私たちPTAの考えと全く同じだと感じた。

これからも長野県の子どもたちのため、できる限りのことを精一杯努めたい。

■懇談会の感想 文化財生涯学習課 岡田課長

提案も含めたくさんの質疑やご意見をいただき、非常に活発に議論ができたと考える。いただいたご意見についての県教委からの回答は、できること、できないこと、すぐに取り掛かれること、取り掛かるには時間がかかることさまざまあるが、直接お会いして真摯な思いや熱を受け止める、それが懇談会の意義であり大切なところだと感じた。本日出席の各課も、そうした思いをしっかりと受け止めて引き続き取り組んでまいりたいと意を新たにした。

今後も連携をとりながら、提言のあった懇談会のあり方も相談していきたい。

*長野県教育委員会からの回答を抜粋して掲載しております。